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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)246号 判決

主文

一  原判決中被告敗訴部分を取り消す。

二  原告の請求を棄却する。

三  原告の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする。

理由

一  請求原因1及び3の事実は当事者間に争いがない。

二  同2の事実のうち、被告が昭和四二年二月一日に原告と本件契約を締結したことは当事者間に争いのないところ、《証拠略》によれば、本件契約は、被告から原告に対し、継続してシリカゲル等の商品を供給、販売する内容の契約であったことが認められる。

三  そこで、抗弁につき検討する。

1  《証拠略》によれば、本件契約について当初の昭和四二年二月一日に作成された契約書には、契約の期限は向う一か年とし、当事者のいずれかより破棄変更の申出のない限り、自動的に一か年延長される旨明記されていることが認められる。

《証拠略》によれば、その後にも改めて右と同旨の契約書が作成されていること、そのいずれもが定型書式による市販の契約書用紙を用いることなく、特に本件契約のために作成されたもので、契約文言も若干ずつ手直しされていることが認められるので、右期間の定めが単なる例文にすぎないとみることはできない。

そうすると、本件契約は期間を一年とするものであったと認めるのが相当である。

もっとも、契約成立後二七年間にわたって契約関係が中断することなく存続してきたことは被告の明らかに争わないところであるから、その間に、契約書の記載にかかわらず本件契約を期間の定めのないものに変更する黙示の合意があったものとみる余地がないではないけれども、平成五年に改めて作成された契約書にも前記と同旨の一年の期間が明記されていることからしても、契約関係が右のように長期間存続してきたからといって、これが期間の定めのないものになったと推認することはできず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

2  そうすると、前記当事者間に争いがない本件更新拒絶ににより、本件契約は平成六年四月に期間の満了とともに終了し、それに伴って被告の原告に対する本件契約に基づく商品供給義務も消滅するにいたったものといわざるをえないかのようである。

3  しかしながら、原被告間の契約関係が繰り返し自動的に更新され、二七年間の長きにわたって中断することなく存続してきたことは前記のとおりであり、その間、被告から原告に対し反復的継続的に商品が供給されてきたものであるから、本件契約に基づく当事者間の法律関係は、継続的売買取引契約関係にほかならないというべきところ、このような継続的契約関係にあっては、継続的契約関係に関する民法六二八条、六六三条二項、六七八条二項等の趣旨に照らしても、信頼関係の破壊等のやむをえない事由がない限り、これを解約したり更新を拒絶したりすることはできないものと解するのが相当である。

4  そこで、被告の本件更新拒絶についてやむをえない事由があったかどうかを考える。

(一)  原告が本件契約に基づき、市場の動向、他社の同種製品の品質及び販売上の動向について被告に報告すべき義務を負っていたこと、原告の関連会社であるセイナン化成株式会社が中国産シリカゲルを取り扱っていたこと、その事実を被告に報告しなかったことはいずれも当事者間に争いがない。

(二)  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件契約を締結した昭和四二年ころ、被告の代表者であった高橋勝(現在の被告代表者の先代)は、原告の株式のうち五〇パーセントを取得した。

(2) 原告と被告とは、平成五年四月一三日、諸外国等の安価な他社商品がシリカゲル市場に出回った時には、被告は原告の情報を基に原告が不利にならないよう最善の方法をもって対処する旨を約し、その趣旨を記載した書面を作成した。

(3) 被告はかねてから、他社の同種商品を購入する者とは代理店契約を締結しない方針を表明していた。

(4) 被告の代理店である原告も、日々の営業のなかで被告の担当者と密接な連絡をとりながら、市場に流通しているシリカゲルの製造元、品質、価格など他社の商品に関する情報提供をし、平成二、三年ころから市場に出回り始めていた中国製のシリカゲルについても情報を提供していた。

(5) ところが、原告は、原告と原告代表者の父とでその全株式を所有しているセイナン化成株式会社が平成五年ころより中国製シリカゲルを他から購入するようになったのにそのことを被告には一切告げなかったばかりでなく、平成六年一月初めころ被告の取締役営業開発部長柴田孝次らが年始挨拶のため原告を訪れて、輸入シリカゲルに対する対応策を協議した際にも、右購入の事実を秘匿したままであった。

(6) その直後である同月一八日ころ、セイナン化成株式会社が中国産シリカゲルを他から購入していることが被告の知るところとなったことから、被告は直ちに原告に対し釈明を求めた。

(7) これに対し、原告は同年二月一四日付けで、この商品を取り扱ったのはセイナン化成株式会社であり、今後ともこのようなことが増えることが予想されるが、原告とはなんら関係のないことである旨書面で回答した。

(三)  右の事実関係によれば、原告と被告とは、永年にわたってシリカゲル等の売買取引を継続し、代理店とメーカーという関係で商品の販売拡大のために協力するとともに、外国産の安価な商品に対しても共同して対応してきたものであって、その間に厚い信頼関係があったことが認められる。したがって、原告またはその関連会社が外国産の安価な商品を購入すること自体はなんら本件契約に違反するものでないとはいうものの、本件契約上の報告義務に違反してそのような事実を秘匿し、それが被告の知るところとなった後もその理由なり事情なりを釈明しようとせず、なおこれを継続するような意向さえ示したことは、右信頼関係を著しく損なうものといわざるをえない。そうすると、被告が本件契約の更新を拒絶したことにはやむをえない事由があったものというべきであるから、本件契約は平成六年四月に期間の満了とともに終了し、被告の原告に対する商品の供給義務も消滅するにいたったものといわなければならない。

四  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がなく、これを一部認容した原判決はその限度で不当である。

よって、被告の控訴(第二四六号事件)は理由があるから原判決中被告敗訴部分を取り消したうえ、原告の請求を棄却することとし、原告の控訴(一九〇号事件)は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 孕石孟則 裁判官 田中恭介)

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